松尾画報

辺境のカンガルーの近況

課長の説教

前回に引き続き、出版社に勤めていたときのエピソードをもうひとつ。

 

 

ある年、忘年会を開き、取引のある業者さんたちを呼んで一年の労をねぎらいました。

印刷会社からは、今年から私たちの雑誌の担当になったカワゴエ課長と、

カワゴエ課長と20年以上一緒に働いているオダ課長の二人が参加。

普段はすごく腰の低いカワゴエ課長、宴会前に意を決した顔で言いました。

 

 

皆さん、私ね、今日はお酒を飲まさせていただきますね。

すぐ酔っちゃうので普段全然飲まないんですけど、お酒自体は大好きなんですよ。

あ、ご心配なく、今日は弊社のオダも来ておりますので大丈夫です。

いやぁ、編集部の皆さんと一度飲みたかったんですよぉ。

 

 

宴会が始まり、カワゴエ課長、ごくごくっとビールを飲みます。

「んー!美味しい!久しぶりに飲むとほんと美味しいですねぇ!」

小さなグラス3杯くらいのビールを飲んだ課長、開始10分くらいでもう酔っ払いです。

すっかり陽気になった課長、すっと立ち上がりました。

上着を脱ぎ、シュッとネクタイを取り、それはいきなり始まりました。

 

 

「ハシモトォォォ!!!」

大声です。みんな唖然とします。

「あなたはねぇ!原稿が遅いんですよぉ!もっと早く!早くプリーズ!オッケー!?」

カワゴエ課長は続けます。

「ただねぇ!私ねぇ!あなたの編集、嫌いじゃないよぉ!来年もファイトォ!」

さすが課長。日頃の不満をぶつけつつも、フォローも忘れません。

 

 

「次ぃ!フジオォォ!あなたも原稿が遅い!もっと早くプリーズ!でも通販ページいつもがんばってるね!」

「イノダァァァ!あなたは誤植が多すぎる!そしてやっぱり原稿遅い!でも企画は面白いよ!」

編集部員一人ずつを説教し、褒め、笑ったり泣いたり、台風のような酔っ払いの課長。

そして、コース料理のデザートを待たずに、満足しきった顔で眠ってしまいました。

旅行時の編集長もそうでしたが、お偉いさんになるとストレス溜まるんでしょうかねぇ…。

 

 

こうなることをただ一人分かっていたオダ課長、当然平謝りです。

「みなさん、本当すみません…。悪気はないんです、カワゴエが飲むといつもこうなんです…」

帰りのタクシーに乗り込むときに、カワゴエ課長に肩を貸しながら、子供をあやすように話しかけるオダ課長。

 

「皆さん、許してくれてよかったな、ケイちゃん。でもな、ケイちゃん、やっぱり呼び捨てはさすがに失礼やから、次からはやめような」

 

タクシーの窓を開け、深々と頭を下げながら帰っていきました。

呼び方が「弊社のカワゴエ」でなく、ニックネームであろう「ケイちゃん」になっていたのが印象的でした。

20年来の絆が垣間見えて、寒い年末になんだかほっこりしたのを覚えています。

翌日、カワゴエ課長は菓子折をもってきて、これでもかというくらい深々と頭を下げながら、一人一人謝り回っていました。

 

 

ちょっと昭和っぽいというか、ドラマなんかに出てきそうな感じというか。

課長の行為、褒められたものではないかもしれませんが、正直楽しかったですね。

最近はあんまり無茶苦茶なことやる人減っちゃった気がするなぁ。

いいことなのか悪いことなのか、よくわかりませんけど。

 

 

 

 

出版社でのエピソード、思い出したらまた書いてみようかと思います。

お酒の席の説教の話ばっかりで、出版社らしいこと、まだ何にも書いてませんもんねぇ…。