松尾画報

『心呼吸』by柴犬

美しい彼

「汝、星のごとく」の作家、凪良ゆうさんのデビューはBL(ボーイズラブ)小説だったことをご存知ですか?凪良ゆうさんのBL小説代表作「美しい彼」を読みました。漫画1〜5巻を読んだ後、小説で「美しい彼」「憎らしい彼」「悩ましい彼」「interlude」「儘ならない彼」と、美しい彼シリーズを読破しました。小説の世界への没入感がすごくて、私は何度か電車を乗り過ごしました・・。

BLと聞くと生理的に受け付けないと拒否反応を示す方も沢山いると思います。私もBLドラマの金字塔と言える「おっさんずラブ」を初めて観た時は、ちょっと無理、受け付けないかも・・とBLに抵抗がありました。でも同じジャンルでも、内容は多岐に渡り、作品によっては共感出来たり受け入れられたりします。どうか、先入観なしに、この「美しい彼」を是非読んで欲しいです。絶妙な設定に、何とも言えない関係性、表現がとても細やかで、今まで見た事のない世界を見せてくれます。BLというより、「人を好きになること」が描かれていると思います。

あらすじ・・無口で友達もいない、スクールカースト最底辺の高校生、平良。そんな彼が一目で恋に堕ちたのは、誰ともつるまず美しく孤高にクラスの頂点に君臨するキング、清居。清居の言葉ひとつ、その手を通過した小銭さえ尊く感じる平良。真逆な2人が織り成すラブストーリー。

まず、最大の魅力は、美しい彼(清居)が本当に美しいんです!ビジュアルは勿論、生き様も格好良いんです。平良が清居に心酔した時の気持ち、恋に堕ちた表現として、「キヨイソウ。黒のサインペンで強く、くっきりと額に書かれてしまった。子供が持ち物に名前を書くように、自分はキヨイソウのものになってしまった。大事にしようが、振り回して遊ぼうが、八つ当たりで踏みつけようが、飽きて捨てようが、どう扱ってもいいものされた。残酷で輝かしい烙印が自分の額に押されている。」が印象的でした。凪良ゆうさんの筆力、本当にすごいと思います。私は平良や清居と性格的な共通点はほとんどないのに、読み始めるとどっぷりその世界に浸り容易に感情移入することが出来ました。登場人物のキャラは作り込まれていて、凪良ゆうさんの綴る文章は読み易く、言葉巧みで美しいです。こんな絶妙な設定、どうやって思い付くんだろう?と、その発想力に脱帽します。「俺は最後の一兵になってもキングに忠誠を誓う」の言葉通り、普段は「きもうざ」でも、清居の窮地には必ず味方になって助けてくれる平良。破れ鍋に綴じ蓋の2人をずっと見守りたくなります。情景は映像のように浮かんで、人物像は魅力的、笑いあり涙あり、ときめきあり、切なさあり、成長あり、「憎らしい彼」以降は、BL要素薄目の一般文芸並みの内容の濃さでした。読後は心が潤って、5歳くらい若返った気分になりました。

第1巻の「美しい彼」は、2014年12月発売(2024年10月20日、32刷!)、最新刊の「儘ならない彼」は2024年10月発売、その間、一般文芸作品「流浪の月」や「汝、星のごとく」で各々100万部超えの売り上げを成し、知名度が一気に上がった後も、凪良ゆうさんはBL小説を書き続けています。一般文芸、BL小説の二刀流で今後も読者を楽しませて欲しいです。

ちなみに「美しい彼」はドラマ化、映画化もされています。少し観ましたが、BLの実写化は中々難しいな・・と、イメージとちょっと違う感がありました。漫画は小説の世界観を忠実に表現していると思いますが、1〜5巻で「美しい彼」が終わっていません(シリーズ全部、漫画化するなら10年くらいかかりそうです・・)。

「美しい彼」、BL小説という枠組を超えた名作だと思います。BLに興味がない人でも、普通の読み物として充分に楽しめると思うので、是非お手に取って読んでみて下さい。描かれている世界は唯一無二でとても美しいです。