『心呼吸』by柴犬
汝、星のごとく
2023年本屋大賞受賞作の「汝、星のごとく」を読みました。「汝、星のごとく」は、2025年7月に文庫本が出版され、2026年に横浜流星×広瀬すずで映画化が決まっており、今、どこの本屋に行っても文庫本が店頭に山積みされています。
あらすじ・・風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂、2人は17歳で出会った。ともに心に孤独と欠落を抱えた2人は恋に落ちるが、網のようにまとわりつく地縁、血縁に手足をとられながら、互いへの恋情にもがきつつ、懸命に自分の人生を生きようとする。出会いの17歳からの15年間の2人を描いた物語。
まず始めに、この物語はとても暗くて重いです。ある程度、元気な時に読むことをおすすめします。私は主人公の2人に感情移入して、途中、現実では味わったことのない、この上ない「絶望」を感じました。
恋に落ちる暁海と櫂は、お互いに種類の異なる毒親を持ち、母親に振り回されて依存されているヤングケアラーでした。そんな2人は同年代の子よりも、理性的で大人になるしかなく、抱えている悩みも他の人とは共有出来ないものでした。2人が惹かれ合い支え合う10代、辛い日々でも恋の煌めきがあって青春の輝きがありました。遠距離恋愛になった20代、若くして東京で成功した櫂と地元愛媛で仕事と生活にすり減る暁海、2人の心は徐々にすれ違っていきます。思いはあるのにままならない・・2人の別れの時、最後に暁海がホテルを去るシーンは、美しくも悲しくて切なくて・・泣きました。そして辿り着いた30代、今まで経験した全ての事、良い事も悪い事も、ここに辿り着くまでに必要な事だったと思えて、全ての感情が回収されていきます。
ここまで不遇や不幸を与えなくても・・と後半は結構読むのがきつかったです。櫂の優しさにもどかしさを感じながらも、その大らかさが私は好きだったので、もう少し幸せにして欲しかったと思いますが、最後に櫂が生きた証として「本」が形として残ったのは大きな救いでした。随所に名言や生き方への問いかけが散りばめられ、叙情的な文章は読みやすく、じわじわと、時に大きく、まるで波のように感情が揺さぶられました。2人の恋愛物語を主軸にして、「ヤングケアラー問題」「女性の経済的自立の重要性」「SNSやメディアの炎上と言う名の無責任な暴力」についても丁寧に描かれていました。それらが、どんな風に人を蝕んでいくのか、真綿で首を絞められる感覚を本を通じて追体験し、主人公と同じく私も窒息しそうになりました。作者からは「優しい人にならなくて良い。どんなに辛くても経済的に自立して、時にわがままでも良いから、自分の人生の舵は自分で取って生き抜いて!」と言う強いメッセージを受け取りました。本の構成はプロローグ、本編、エピローグで構成されていますが、プロローグとエピローグはほとんど同じ内容です。本編を挟むことで、プロローグで感じた世界が、エピローグでは180度違う世界に見える不思議・・見事な構成でした。
作者の凪良ゆうさんについて、Wikiより・・母子家庭で育つ。母は仕事の関係などで家にいないことが多く、小学校低学年の頃から料理や洗濯、掃除を1人で行っていた。小学6年生の時、10日間ほど1人で過ごし、お金も食べ物も底を尽きそうになったことがある。母はそのまま帰ってくることはなく、担任の先生が異変に気づいてくれた。その後、児童養護施設で暮らすことになる。高校を中退後、15歳から自立して働きはじめる。
「汝、星のごとく」、作者が魂を削って書いた作品だと思います。それはとても重くて苦しい内容ですが、焼き直しのありふれた恋愛小説ではなく、異彩を放つ恋愛小説で、多くの人に読んで欲しい一冊です。
- « 光る君へ③