松尾画報

『心呼吸』by柴犬

星を編む

凪良ゆう作「汝、星のごとく」の続編「星を編む」を読みました。「汝、星のごとく」は全般的に重くて苦しかったのですが、「星を編む」を読むことで、その感情の全てが救済され昇華出来ました。続編ではなく、上下巻とした方が良かったのでは?と思う程に「星を編む」の存在感は大きいです。「星を編む」まで読んでこその、「汝、星のごとく」と言えると思います。

あらすじ・・ 短編3部から構成。春に翔ぶ:櫂と暁海を支えた北原先生と、彼の教え子の菜々の過去の物語。星を編む:才能という名の星を輝かせるために、魂を燃やす編集者たちの物語。漫画原作者、作家となった櫂を担当した編集者2人が繋いだもの。波を渡る:櫂去りし後の暁海と周りの人達の物語。

3編とも、とても面白かったですが、1番好きな話は、「星を編む」でした。会社内外で奮闘する女性編集長(文芸)、二階堂さんには共感しかなかったです。世の中はどんどん変わってきてると思いますが・・私が研修医の時は公然と、「女性医師は男性の1.2倍働いて並、認められようと思ったら、男性の1.5倍は働かなければいけない」と言われていました。男性医師は、地位も名誉もお金も配偶者も子供も、何一つ失わずに全てを手に入れられるのに、女性医師が何かを得ようと思えば、何かは捨てなければいけない現実。男性優位な社会に当時は疑問を持つことも許されなかったな・・と振り返ります。陰口や嫉妬を払い除けて、「今、折れるわけにはいかない」と仕事に邁進する二階堂さん、「追いかけるのをやめたら、それが本当の夢の終わりだよ」と二階堂さんと同じ方向を向いて走り続ける、同じく編集長(漫画)の植木さん。戦友の2人の会話はリズム良くて、信頼関係があって最高でした。仕事は「何」をするか?も大事ですが、「誰」とするか?も重要です。不満や愚痴ばかりの人ではなく、前向きに未来を見据えてがむしゃらになれる人と一緒に働けたら最高ですね。

2作品の裏テーマは「美しく理想どおりに整った愛などない。歪こそが愛の本質なのである」と思いました。人を好きになることに理由なんかない、理性では割り切れないもの、誤ってしまうのが愛なのだと伝えていると感じました。

2作品を読んで、作中の描写が美しく魅力を感じて、私にはしたい事が出来ました。刺繍作家の作品を見てみたい、愛媛県に行って瀬戸内海の夕景を眺めたい、瀬戸内レモンシロップを炭酸で割って飲みたい、です。背表紙の刺繍と貝殻を組み合わせた作品、とても綺麗だと思いませんか?背表紙の刺繍作家さん(a_urore_)にInstagramでDMを送ったら、2年先まで展示会の予定が決まっていて、作品はすぐにsold outになるため、手元には販売出来る作品はないとのことでした。2026年夏頃に名古屋で個展があるそうなので、絶対見に行きます!とDMし、私の来年のしたいことリストに入れました。

「星を編む」、本編で読後に感じたやり切れなさを全て解消してくれた癒しと弔いの一冊でした。櫂去りし後も残された人の人生は続いていく・・日常は自分がどんな状況でも必ずやってくる、無常でそれでいて優しいものに思えました。「汝、星のごとく」を読んだ方は必ず読んで下さい。