松尾画報

松尾の独り言

ピロリ菌の発見

松尾です。

私が学生時代にはピロリ菌の存在は知られておらず、しかし胃癌の原因としては慢性胃炎(正確には萎縮性胃炎)が発生母地になることが多いことは解っていました。その萎縮の原因となるのが、ピロリ菌すなわちHelicobacter pylori(幽門腺領域に住み着く螺旋状の悍菌)です。

あまりに有名な話ですが、以前から胃の中には螺旋状の細菌の存在があるのではという意見もありまたが、なんせpH2という強酸の環境下で生き残れる細菌はないであろうことが医学の常識でした。そんな中でオーストラリアの病理医のマーシャルは、胃炎をおこしている患者さんの胃粘膜組織内にやはり螺旋状悍菌が多く見られることに注目し、研修医であるウォーレンとともに、病原菌となりうるための条件(コッホの4原則)の証明にとりかかりました。通常の48時間では培養されず、ウォーレンがイースター祭のために休暇をとっており、4日目に諦めモードで見に行ったところ、コロニーが形成(ピロリ菌の培養に成功)されていました。偶然の賜物と考えるか、既成概念にとらわれない発想の転換によるものと考えるべきなのかは判りませんが、二人はその後、コッホの4原則を証明し、2005年にノーベル生理学医学賞を受賞されました。

ピロリ菌は胃粘膜の萎縮を介して胃癌の原因となるだけではなく、悪性リンパ腫や胃十二指腸潰瘍のみならず、難病である血液疾患の原因などにもなることが判ってきています。