辺境のカンガルーの近況
褒められたことじゃないけど Part.1
昔勤めていた広告制作会社での同僚、営業社員・タカハシ。
なかなかに面白い発想をする、ちょっと変わったやつでした。
ある日、営業車に一緒に乗っていたとき、
運転中のタカハシの携帯電話が鳴りました。
『そこの道路脇に停まるわ。ハッシー、ごめん、鞄の中のケータイ取って。誰から電話?』
「オッケー、えーと………”着信・舘ひろし”って出てるんやけど…?」
『あぁ、タナカさんやな。はい!タカハシです!タナカ様、お世話になりますぅ~』
聞けば、クライアントさんに「舘ひろし似のタナカさん」という人がいて、
タナカという苗字は他にもたくさん登録があるので「舘ひろし」で登録しているとのこと。
いやいや、ややこしい。とてもややこしい。
「”タナカ様(A社)”とかで登録したらええやんか」
『いや、A社にタナカさんが何人もいたらややこしいやん』
「”タナカ様(A社・営業二課)”でどう?」
『いや、パッと顔出てきにくいやん。やっぱ”舘ひろし”やって』
「登録名バレたら、先方、怒るかもよ?」
『大丈夫、バレても笑ってくれそうな人しか、そういう登録してないから』
タカハシ、譲りません。
いろいろ言い訳しますが、このネーミング遊びをただ楽しんでいるだけです。
そして再び、タカハシのケータイが鳴ります。
『停めるわ。ハッシー、ケータイ取って。誰から?』
「オッケー、えーと………”糸こんにゃく”さんから電話やで…」
『あぁ、うちの経理のトモコさんやわ。後でかけ直すし、このまま停まらず行こか』
「うちの社員もそんな登録になってんのかよ…」
『こないだ皆でおでん食べに行ったとき、トモコさん、糸こんにゃくについてアツく語ってたやろ?』
「ああ、あれ、すごい熱弁してたな。あんなに糸こんにゃくにこだわりあるとは…」
『これや!と思って飲み会中に登録変えたわ。”トモコ経理”から”糸こんにゃく”に』
「まあたしかに、バレても笑ってくれるやろな。むしろ喜びそうやな、あの人やったら」
社会人としては、あまり褒められたことではないかもしれませんが。
正直、こいつ遊び心あるなぁ…、と思いましたね。
「面白きこともなき世を面白く」精神を持っているといいますか。
胸板部長、ネクタイお洒落さん、ほぼ安室奈美恵、文庫本マスター、とかとか。
なるほど、本人のことを知っていれば「あの人のことだろうな」と分かります。
見た目だけでなく、性格や立ち振る舞いも踏まえて、うまく特徴を捉えています。
しかも、悪口的なニックネームが一切なく、どれもくすっとするユーモアがあるんですよね。
それって実はちょっとすごいことかも、と今では思います。まぁ、少しね。
ちなみに私の登録名は「酒神さま」でした。
直球やないか。もっと捻れや。
今度会ったら、私の新しいニックネームを考えさせてきます。